うら田 創業80年史
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25第1章 始まりはパン屋からの縁談がどのような経緯でまとまったかは分からない。だが、2人は桂月堂売店の開店からちょうど1カ月後の昭和11年(1936年)11月、めでたく夫婦となった。 きみは笑顔の絶えない明るく気さくな女性だった。一方、一は典型的な職人タイプである。愛想がなく話し下手で、お世辞にも客商売に向いているとは言えなかった。それだけに、一にとってきみは心強い人生のパートナーとなった。 そして、結婚から1年後には待望の長男が誕生し、一郎と名づけた。開店、結婚、誕生とうれしい出来事が続き、一は仕事にも自然と力が入った。 にし茶屋街の芸妓がお得意様に  桂月堂売店のお得意様になってくれたのが、店の近くの「にし茶屋街」の芸妓たちだった。 にし茶屋街は金沢市内を流れる犀さい川がわの左岸に広がる花か街がいである。文政3年(1820年)、加賀藩12代藩主前田斉なり広ながの時代に、城下に点在していたお茶屋が集められたのが始まりだ。一が開店した昭和10年代前半は軍人や旦那衆をもてなす社交の場とし

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