うら田 創業80年史
31/141

33第1章 始まりはパン屋から 一の顔はみるみる青ざめた。「甚田先輩の次は自分かもしれない。浦田一の名前で書かれるならまだしも、桂月堂売店と書かれたら、ご主人からいただいたのれんに泥を塗ってしまう。恩を仇で返すようなまねはできない」 一の決断は早かった。すぐさま「桂月堂売店」ののれんを下ろし、「浦田本舗」に掛け替えたのである。 一がなぜそれほどまでに危機感を募らせたのか、はっきりとした理由は分からない。一つ推測できるとすれば、職人気質の一が単にパンや菓子を仕入れて売るだけではもの足りず、自分でも何か作ってみたいと闇ルートで米や小豆、砂糖などを仕入れ、こっそりと菓子を作っていたのではないかということだ。 そんな事情など知るよしもないなじみの客からは、突然の店名変更に戸惑いの声が上がった。にし茶屋街の芸妓の中には、「浦田って何やい桂月堂売店の看板を下ろした頃の一。菓子を研究するために上京したこともあった

元のページ  ../index.html#31

このブックを見る