うら田 創業80年史
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81第3章 焼け跡からの再出発もなく、損害賠償は全くの寝耳に水の話だった。しかし、一郎は相手の立場に立って考えた。相手が気分を害したのは事実であり、それならば誠意をもって謝らなければいけないと、慌てて店を飛び出し車を岐阜へと走らせた。 何とかその日のうちに岐阜に着いたものの、時刻はすでに真夜中。宿も取らずに出てきたため、一郎はやむなくラブホテルに宿泊し、翌朝一番で謝罪に出向いた。 内容証明郵便が配達された翌朝、金沢から謝りにやって来た一郎を見て、相手の主人も心底驚いた表情をのぞかせた。一郎は浦田の商品名について詳しく説明し、今後広告などでは省略せずに「加賀八幡」と必ず付けると約束した。誤解がとけ、相手方も振り上げたこぶしを下ろしてくれた。 一郎はほっと胸をなで下ろすとともに、商人である前に人間として礼を尽くし、真心で接することの大切さをあらためて学んだ。 この一件以降、浦田ではトラブルを回避するために他の商品名もすべて商標登録するようにした。同時に、今後使用する可能性のある商標についてもあらかじめ権利を確保しておこうと、金沢の風物に由来する商品名をいくつか考えて登録した。
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